カスハラ対策は2026年10月から義務化|相談・記録・連絡をITで支える8つの仕組み

「カスタマーハラスメント対策が義務化されると聞いたものの、何から始めればよいか分からない」
「相談窓口は作ったが、現場から本当に連絡が来るのだろうか」
「電話を録音すれば十分なのか、そのデータを誰が管理するのか決まっていない」
このような状態の会社、多いのではないでしょうか。
2026年10月1日から、すべての事業主にカスタマーハラスメント対策が義務付けられます。
会社には、方針の明確化や相談体制の整備だけでなく、事実関係の確認、被害を受けた従業員への配慮、再発防止、相談者のプライバシー保護などが求められます。
ただし、規程や窓口を用意しただけでは、現場で迷わず動ける仕組みにはなりません。
相談先が分からない、記録方法が人によって違う、証拠が個人のスマートフォンやパソコンに残る、といった状態では、必要な情報を責任者へ速やかにつなげることが難しくなります。
そこで役立つのがITです。
この記事では、カスハラかどうかを機械に判定させるのではなく、従業員を一人で抱え込ませず、事実を残し、責任者へ早くつなぐためにITをどう使うかを、中小企業向けに整理します。
※本記事は2026年9月23日時点の公表資料を基にした一般的な情報です。個別事案の法的判断や、就業規則・社内規程の整備については、社会保険労務士や弁護士などの専門家へご相談ください。
2026年10月1日からカスハラ対策が義務化
厚生労働省の指針では、職場におけるカスタマーハラスメントを、次の3つをすべて満たすものとしています。
顧客や取引先、施設利用者などによる言動である
業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えている
その言動によって、労働者の就業環境が害される
対象となる「職場」は店舗や事務所だけではありません。
取引先、顧客の自宅、打ち合わせ先など、従業員が業務を行う場所も含まれます。
また、対面だけでなく、電話、メール、SNSなどインターネット上の言動も対象になり得ます。
一方で、顧客からの苦情が、すべてカスハラになるわけではありません。
商品やサービスに問題がある場合の正当な申し入れや、障害のある方による合理的配慮の申し出まで、一律にカスハラとして扱わない注意が必要です。
そのため、現場の担当者に「その場でカスハラかどうかを確定してください」と求める仕組みは現実的ではありません。判断が難しい段階でも相談でき、事実を確認してから会社として対応を決める流れが必要です。
会社に求められるのは「窓口を作ること」だけではない
厚生労働省の資料では、事業主が講ずべき措置として、主に次の内容が示されています。
従業員を守る方針と、カスハラへの対処方法を明確にして周知する
相談窓口を定め、適切に対応できる体制を作る
相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認する
被害を受けた従業員へ適切に配慮する
再発防止策を講じる
特に悪質な行為への対処方針を定め、実行できる体制を整える
相談者などのプライバシーを守る
相談や事実確認への協力を理由とした不利益な取り扱いをしない
ここで重要なのは、相談窓口の名称だけを決めても、対策が機能するとは限らないことです。
誰に、どの手段で相談するのか。
責任者が不在なら誰へ通知するのか。
電話やメールの証拠をどこに保存するのか。
誰が閲覧でき、いつ削除するのか。
こうした運用を具体化して、初めて現場で使える体制になります。
ITは、この「相談・記録・連絡」を同じ流れとして動かすために使います。

ITで支える8つの仕組み
1.方針と対応手順を、いつでも確認できる場所に置く
最初に必要なのは、会社としての方針と対応手順です。
ここはITツールより先に、経営者、労務担当者、必要に応じて社会保険労務士や弁護士と整理します。
内容が決まったら、社内ポータル、グループウェア、共有フォルダーなど、従業員が普段から使う場所へ掲載します。
「規程を作成して一度メールで送った」だけでは、必要な場面ですぐに見つけられません。
掲載する情報は、少なくとも次の内容です。
会社として従業員を守る方針
相談先と連絡方法
現場で対応を交代する条件
警察や弁護士など外部へつなぐ基準
記録する項目と証拠の保存先
相談者のプライバシーを守ること
相談を理由に不利益な取り扱いをしないこと
古い手順が残らないよう、更新日と管理責任者も表示しておきましょう。
2.迷った段階で使える相談窓口を一本化する
相談窓口は、カスハラと確定した事案だけを受け付ける場所ではありません。
厚生労働省の指針では、発生のおそれがある場合や、該当するか微妙な場合にも広く相談へ対応することが求められています。
専用フォーム、社内チャットの限定チャンネル、専用メールアドレスなどを用意し、「迷ったらここ」と分かる入口にします。
他のハラスメント相談窓口と一体化する方法もあります。
ただし、フォームの項目を増やしすぎると、緊急時に入力できません。
最初は氏名、発生日時、連絡手段、現在の状況、折り返し方法などに絞り、詳しい内容は担当者が聞き取る方法も有効です。
匿名相談を受け付けるか、休日や夜間はどうするか、命や身体に危険がある場合はフォームより先に警察へ連絡することなども明示します。
3.責任者への通知とエスカレーションを自動化する
相談を受け付けても、担当者がメールを見落とせば初動が遅れます。
フォームへの入力をきっかけに、責任者へ自動通知する仕組みを作ると、受付から対応開始までの空白を減らせます。
例えば、緊急度に応じて次のように通知先を分けます。
身体への危険や脅迫がある:経営者・責任者へ即時通知し、警察への連絡を検討
対応が長時間続いている:管理者へ通知し、担当交代を判断
同じ相手から繰り返し連絡がある:過去記録と照合し、対応方針を統一
判断に迷う:相談窓口で受け付け、労務・法務担当者へ確認
責任者が不在の場合の代替担当者も決めます。
通知の自動化は便利ですが、誰も対応しなかったときに再通知する条件や、対応済みを確認する方法まで設計することが大切です。
4.記録項目を統一し、案件ごとに経緯を残す
事実関係を確認するには、担当者の記憶だけでなく、時系列で確認できる記録が必要です。
記録様式には、次のような項目を用意します。
発生日時と場所
電話、メール、対面、SNSなどの手段
相手の要求内容と言動
対応した従業員と同席者
会社側が説明・提案した内容
対応に要した時間
録音、メール、画面保存などの有無
上司への報告日時と指示内容
従業員の心身の状況
その後の対応と結果
ここでは、評価よりも事実を分けて記録します。
「ひどい暴言だった」だけでなく、可能な範囲で実際の発言、回数、時間、周囲の状況を残します。
また、顧客の要求だけでなく、自社の商品、サービス、説明、対応に問題がなかったかも記録します。
正当な苦情との区別や、サービス改善につなげるためです。
5.電話・メール・SNSの証拠を案件と関連付ける
厚生労働省の指針では、顧客等とのやり取りを録音・録画することや、事実確認の際に客観的な証拠を確認することが対処例として示されています。
ただし、録音や録画自体が一律に義務付けられているわけではありません。
導入する場合は、録音データ、通話履歴、メール、問い合わせ履歴、SNSの画面保存などを、案件番号や受付番号で関連付けます。
証拠が、担当者の個人スマートフォンや個人メールに分散する状態は避けましょう。
また、録音・録画には顧客や従業員の個人情報が含まれる可能性があります。
録音開始時の案内を行うか、何の目的で利用するか、誰が確認できるか、どれくらい保存するかなどを事前に整理します。
業種や利用場面によって必要な対応は異なるため、法的な判断が必要な場合は専門家へ確認してください。
6.閲覧権限を必要な人だけに限定する
カスハラの相談記録には、顧客情報だけでなく、相談した従業員の健康状態や、性的指向・ジェンダーアイデンティティなどの機微な情報が含まれることがあります。
証拠を残すことと、社内の誰でも見られる状態にすることは別です。
保存先は、相談担当者、責任者、対応に必要な専門家など、業務上必要な人だけが閲覧できるようにします。
共有リンクを知っていれば誰でも見られる設定や、全社員向けフォルダーへの保存は避けます。
確認したい項目は次のとおりです。
個人ごとのIDで利用しているか
多要素認証を設定しているか
閲覧、編集、削除の権限を分けているか
異動や退職時に権限を変更・削除できるか
誰が閲覧・変更したかを確認できるか
外部の社労士や弁護士へ共有する場合、範囲と期限を限定できるか
IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」でも、データの共有設定を必要な人に限定し、アクセス権の付与状況を管理・見直すことが示されています。

7.保存期間・削除・バックアップのルールを決める
「証拠になるかもしれないから、すべて無期限で保存する」という運用は、情報漏えい時の影響を大きくします。
一方で、担当者の判断ですぐ削除できる状態では、事実確認や再発防止に使えません。
記録の種類ごとに、保存期間、削除の承認者、削除方法を決めます。
紛争や調査が継続している案件は通常の削除対象から保留するなど、例外の扱いも必要です。
具体的な保存期間は一律ではないため、法令、業界ルール、契約、紛争対応の必要性を踏まえて専門家と決定します。
重要な記録については、誤削除やシステム障害に備えたバックアップも検討します。
ただし、元データを削除してもバックアップに残り続ける場合があります。
復元できることだけでなく、保存期間を過ぎたデータをどう扱うかまで確認しましょう。
クラウドサービスを利用する場合は、利用者の範囲、認証方法、バックアップ、契約終了時のデータの取り扱いも確認します。
8.記録を振り返り、再発防止へつなげる
記録は保管して終わりではありません。
個人を必要以上に特定しない形で、発生した部署、連絡手段、時間帯、要求の種類、対応時間などを定期的に集計すると、改善すべき場所が見えやすくなります。
例えば、特定の説明で同じ苦情が繰り返されているなら、案内文やWebサイトの改善が有効かもしれません。
電話対応が長時間化しやすいなら、管理者へ交代する時間の基準を明確にする方法があります。
AIを使って記録を要約したり、類似案件を分類したりすることも考えられます。
ただし、個人情報を外部のAIサービスへ入力してよいか、契約や利用設定を確認する必要があります。
また、AIの出力だけでカスハラ認定や対応方針を決めてはいけません。
文脈や自社側の対応、従業員の状況を人が確認し、最終判断を行います。
小規模な会社が最初に整えたい5項目
最初から、大規模なシステムを導入する必要はありません。
従業員数が少ない会社であれば、まず次の5項目を整えるところから始められます。
経営者が「従業員を一人で抱え込ませない」という方針を示す
相談先と、不在時の代替担当者を決める
共通の相談・対応記録フォームを作る
記録と証拠を保存する、アクセス制限付きの場所を用意する
緊急時、長時間対応、繰り返し対応の連絡・交代基準を決める
新しいツールを増やす前に、現在利用しているメール、クラウドストレージ、グループウェア、電話サービスなどで実現できるか確認しましょう。
大切なのは製品ではなく、相談が届き、責任者につながり、必要な記録を安全に確認できることです。
運用開始後は、実際に従業員が相談先を見つけられるか、フォームを送信すると担当者へ通知されるか、責任者不在時にも引き継げるかをテストします。
年に一度の研修だけでなく、短い想定事例を使った確認も有効です。
社労士・弁護士・IT担当者の役割を分けて考える
カスハラ対策には、労務、法務、現場運用、ITが関わります。
すべてを一つの担当者だけで決めるのではなく、役割を分けて連携することが大切です。
経営者・管理者:会社方針、対応基準、従業員保護、最終判断
社会保険労務士:就業規則、社内規程、労務上の対応
弁護士:個別事案の法的判断、警告、紛争・警察対応の助言
IT担当者:相談経路、通知、記録様式、証拠の保存、権限管理、バックアップ
ITは、カスハラそのものを判定するものではありません。
しかし、現場からの相談を止めず、必要な証拠を残し、判断する人へ速やかにつなぐ仕組みを作れます。
まとめ
2026年10月1日から始まるカスハラ対策の義務化では、相談窓口を設置するだけでなく、事実確認、被害者への配慮、再発防止、悪質事案への対処、プライバシー保護まで含めた体制が求められます。
ITで整えたいのは、特定の高価なシステムではありません。
迷った段階で相談できる入口
責任者へ確実につなぐ通知
事実を時系列で残す共通様式
電話、メール、SNSの証拠をまとめる保存先
必要な人だけが見られる権限設定
保存期間、削除、バックアップのルール
これらを現在の業務に合わせてつなげることで、「窓口はあるが使えない」という状態を防ぎやすくなります。
制度への対応をきっかけに、従業員が安心して相談でき、会社として落ち着いて判断できる仕組みを整えていきましょう。
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電話・メール・問い合わせフォームなど、現在の相談経路の整理
相談受付フォームと対応記録のひな形づくり
責任者への通知・エスカレーションの仕組みづくり
録音、メール、画面保存などの保管方法の整理
相談記録のアクセス権限、保存期間、バックアップの見直し
など、カスハラ対策を現場で機能させるためのIT面をサポートしています。
「何から整えればよいか分からない」
「今使っているツールで対応できるか確認したい」
という段階でも、お気軽にご相談ください。
法的な判断や就業規則の整備が必要な場合は、社会保険労務士や弁護士と連携する範囲も整理しながら進めます。初回相談は無料です。
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