本物の通知に混ざるフィッシング――見慣れたメールほど危ない理由
- 7月15日
- 読了時間: 8分

「このメール、いつも届く通知に見える」
「セキュリティ設定の確認なら、対応した方がよさそう」
「契約更新のお知らせだから、早めに確認しておこう」
こうした“見慣れたメール”に見えるフィッシングが増えています。
以前のフィッシングメールは、日本語が不自然だったり、見た目が明らかに怪しかったりするものも多くありました。
しかし最近は違います。
本物の通知メールや注意喚起メールの文面をまねて、そこに偽サイトへのリンクを紛れ込ませる手口が出ています。
フィッシング対策協議会の2026年2月の月次報告でも、本物のセキュリティ設定通知依頼や注意喚起メール文面を模倣し、フィッシングサイトへのリンクを追加したメールは違和感に気付きにくいと指摘されています。
つまり、これからのフィッシング対策では、
「怪しいメールを見抜く」だけでは不十分
になってきています。
フィッシング報告件数は12万件超
フィッシング対策協議会によると、
2026年3月に寄せられたフィッシング報告件数は122,381件、
フィッシングサイトURL件数も69,936件、
悪用されたブランド件数は123件とされています。
これだけ数が多くなると、社員一人ひとりがすべてを見分けるのは現実的ではありません。
しかも、最近のフィッシングは、
セキュリティ設定の確認
多要素認証の設定依頼
契約更新通知
本人確認依頼
不正ログインの注意喚起
支払い方法の確認
配送や注文に関する通知
など、日常業務や普段使っているサービスに紛れ込みやすい内容で送られてきます。
一見すると、むしろ「対応した方がよさそう」に見えるのが厄介です。
“本物そっくり”より怖い、“本物の流れに混ざる”メール
フィッシング対策でよく言われるのが、
「日本語がおかしくないか確認しましょう」
「差出人を確認しましょう」
「URLを確認しましょう」
という話です。
もちろん、これらは今でも大切です。
ただ、最近はそれだけでは判断しにくくなっています。
たとえば、普段から使っているクラウドサービスから、
「セキュリティ設定を確認してください」
「多要素認証を有効にしてください」
「契約更新の確認が必要です」
というメールが届いたら、多くの人はそれほど強い違和感を持たないかもしれません。
むしろ、セキュリティ意識が高い人ほど、
「早く対応しなければ」
と思ってしまう可能性があります。
ここが、最近のフィッシングの怖いところです。
不自然なメールではなく、“自然すぎるメール”が入口になる。
この前提で、考える必要があります。
差出人の名前だけでは判断できない
警察庁も、電子メールは仕様上、受信者から見える「送信元名称」や「送信元メールアドレス」は変更しやすく、表示だけで真偽を判断することは困難だと説明しています。
つまり、
「差出人が知っている会社名だった」
「サービス名が合っていた」
「ロゴが入っていた」
「文面が自然だった」
だけでは、安全とは言い切れません。
特にスマートフォンでは、差出人やリンク先の情報がパソコンより見えにくいことがあります。
移動中や忙しい時間帯にスマホで確認して、そのままログインしてしまう。
この流れは、中小企業でも十分起こり得ます。
本当に危ないのは、メールではなく“その後の操作”
以前の記事でも触れましたが、フィッシングで重要なのは、
「メールを開いたかどうか」よりも、その後に何をしたかです。
特に危険なのは、次の操作です。
① ID・パスワードを入力する
偽サイトにログイン情報を入力すると、攻撃者が本物のサービスにログインできる可能性があります。
メール、クラウドストレージ、会計サービス、ネットバンキング、ECサイト、SNSなど、業務で使うアカウントほど影響が大きくなります。
② 認証コードを入力する
多要素認証を設定していても、偽サイトにワンタイムパスワードや認証コードを入力してしまうと、攻撃者に悪用される可能性があります。
「二段階認証があるから絶対安心」ではなく、認証コードをどの画面に入力しているのかを確認することが重要です。
③ 支払い・契約・設定変更を進める
契約更新、請求情報、支払い方法、振込先変更などの案内は、会社のお金や取引に直結します。
見慣れたサービス名のメールであっても、メール内リンクからそのまま操作するのは避けた方が安全です。
中小企業で起こりやすい“判断ミス”
中小企業では、一人が複数の業務を兼ねていることが多くあります。
経理、総務、営業、Web管理、クラウド管理を、少人数で対応している会社も珍しくありません。
そのため、
忙しい時間にメールを確認する
担当者が一人で判断する
正規の通知かどうか確認するルールがない
どこに相談すればいいか決まっていない
「早く対応しないと止まるかも」と焦る
という状況が起こりやすくなります。
フィッシングメールは、この“業務上の焦り”に入り込んできます。
だからこそ、社員に「気をつけて」と言うだけでは限界があります。
まず決めたい「3つの確認ルール」
高度なセキュリティ製品を入れる前に、まずは社内ルールとして次の3つを決めておくと効果的です。
① メール内リンクからログインしない
銀行、クラウド、会計サービス、ECサイト、管理画面などは、メール内リンクからではなく、ブックマークや公式アプリから開くようにします。
警察庁も、電子メールやSMS内のリンクを安易にクリックせず、公式サイトをブックマーク登録したり、公式アプリを活用したりすることを推奨しています。
これはシンプルですが、かなり実務的な対策です。
「メールを見たら、そのリンクを押す」のではなく、
「メールを見たら、公式ルートから確認する」
という習慣に変えるだけでも、リスクを下げられます。
② お金・契約・アカウント変更は別ルートで確認する
次のような内容は、メールだけで判断しないルールにします。
振込先の変更
支払い方法の変更
契約更新
管理者アカウントの変更
パスワード再設定
多要素認証の再登録
請求書の差し替え
確認するときは、メールに書かれた電話番号やリンクではなく、以前から使っている連絡先や、公式サイトから確認することが大切です。
③ 困った時に相談する場所を決める
フィッシング対策で意外と重要なのが、相談先です。
「このメール、本物ですか?」
「入力してしまったかもしれません」
「認証コードを入れてしまいました」
こうしたときに、誰に連絡するのか決まっていないと、対応が遅れます。
中小企業なら、最初から専門部署を作る必要はありません。
まずは、
社内の確認担当者
利用中サービスの問い合わせ先
取引のあるITベンダー
外部IT担当者
金融機関やカード会社の窓口
を整理しておくだけでも違います。
会社側も“なりすましされにくいメール”を考える
フィッシング対策は、受け取る側だけの問題ではありません。
自社の名前やドメインが、悪用される可能性もあります。
警察庁は、企業の本物のメールアドレスになりすましたメールでフィッシングサイトへ誘導するケースがあるとして、自社ドメインの悪用を防ぐ観点から、SPF・DKIM・DMARCといった送信ドメイン認証技術の導入を検討するよう呼びかけています。
中小企業でも、
自社ドメインのメール設定を確認する
SPF/DKIM/DMARCを設定する
不要なメール配信サービスを整理する
使っていないドメインを放置しない
取引先に送るメールの形式を統一する
といった対策は、信用を守るうえで重要です。
「自社が被害に遭わない」だけでなく、自社の名前を使われて取引先に迷惑をかけないという視点も必要です。
“見分ける力”より、“確認する仕組み”
これからのフィッシング対策では、社員の注意力だけに頼るのではなく、会社としての確認ルールが重要になります。
特に大切なのは、
メール内リンクからログインしない
公式アプリやブックマークから確認する
お金が動く操作は二重確認する
アカウント変更は担当者だけで判断しない
迷ったら相談できる窓口を決める
自社ドメインのなりすまし対策も確認する
という基本です。
フィッシングは、もう「怪しいメールを見抜けるか」の問題ではありません。
本物の通知に見えるメールが、本物の業務の流れに混ざってくる。
そう考えると、必要なのは“見破る力”だけではなく、立ち止まって確認する仕組みです。
「うちのメール確認ルール、大丈夫かな?」と思ったら
「社員に注意喚起はしているけれど、具体的なルールはない」
「メール内リンクからログインしない運用に変えたい」
「自社ドメインのなりすまし対策を確認したい」
そんな場合は、ぜひ一度ご相談ください。
ITワークラボでは、中小企業の外部IT担当者として、メール・アカウント・クラウド・ネットバンキング周りの確認ルールづくりから、SPF/DKIM/DMARCなどの基本設定確認まで、現場に合わせてサポートしています。
怖がらせるためではなく、日々の業務を止めないために。
まずは“本物らしいメールが来たときの確認方法”を、一緒に整理するところから始めましょう。
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